獨協人登場

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日本にそして世界にこの問題を伝えていく役割がある

獨協人登場2022.10.10
日本にそして世界にこの問題を伝えていく役割がある

日本にそして世界にこの問題を伝えていく役割がある

ジャーナリスト・写真家
(アジアプレスインターナショナル所属)
廣瀬 和司(ひろせ かずし)さん(94年法律学科卒)

カシミール地域のインド支配地域では、分離独立運動があり、武装勢力掃討の名の下に一般市民に対して殺害を含む弾圧、人権侵害が続いている。 カシミール問題を取り上げる日本人ジャーナリストはほぼおらず研究者も限られる中、廣瀬和司さんの活動は稀有な存在だ。ユースホステリング部に所属していた学生時代、旅先のパキスタンの人々の温かさに触れる。在学中、あるフォトジャーナリストの写真展で受けた衝撃が、廣瀬さんをアジアの紛争地域の取材に駆り立てた。日本にカシミールを問題を知らせることの重要性を真っすぐな眼差しで語ってくれた。

1.大学生の頃
獨協を志望した理由を教えて下さい

 獨協大学に進学したのは、いくつか受かった大学の中で一番上の大学だったから。当時は新宿のはずれに住んでいて、正直に言うと埼玉の大学にもほとんどなじみがありませんでした。そんな中でも法学部を選んだのは、社会に興味があったからです。
 入学式のことは今でも覚えています。妙なアウェー感があり、なぜかと思ったら付属高校の出身者同士が親しくしていたからでした。当日はなぜか革靴が見つからず、仕方なくスーツにスニーカーで式に参加し、恥ずかしいのですぐに帰宅したました(笑)。

学生生活はどうでしたか?

 体育会ユースホステリング部に入りました。高校生の頃に読んだ妹尾河童さんの『河童が覗いたインド』、『河童が覗いたヨーロッパ』という本があり、いつかは自分の目で世界を見てみたいと感化されました。世界に出る前に日本を見たいと思い、それならばとユースを選びました。
 学生時代は飲食店やガードマンのアルバイトをしていました。体育会の活動も充実していましたが、当時のF1ブームもありモータースポーツが大好きで、友人とゴーカートを買って茨城のサーキットまで走りに行っていました。
ユースホステリング部の合宿
伝右川レガッタに参加
ゼミは刑法の奈良俊夫先生でした。刑法の履修は3年次からで、それまでまったく未知の世界でした。実際に勉強したところ正直、性に合いませんでした。可罰的違法性とかは、面白かったですが。それでも良かったなと思ったのは、とある人の勧めでえん罪をテーマにゼミ論を書いたことです。ゼミ論に取り組んだのは数か月でしたが、今のジャーナリズムの仕事に必要な考え方、社会の矛盾を見るという視点はそこで得たものが多いと感じています

⼤学⽣の頃の⾃分に⾔葉をかけるとしたら

 もともと読書好きですが、もっと本を読めということと、もっと社会に関心を持てということですね。大学生は目の前に楽しいことがたくさんありますが、たくさんある時間を活用してさらに腰を据えて本を読むこともできたなと思います。

2.大学卒業後からジャーナリストとして活動するまで

 本好きなこともあり、大学4年生のときは出版などメディア関係の就職を希望していました。しかし人気が高い職種ですからそう簡単には就職できない状況でした。
当時、長倉洋海さんという土門拳賞を受賞したフォトジャーナリストの写真展に行くことがありました。受賞記念の写真展でしたが、全く接点のない2人の大学の知人それぞれから、偶然にもこの写真展を見に行くべきという勧めの言葉を受けたのです。紛争地の写真ですが、そこに写った人々の背景にある生活をあぶり出した写真の素晴らしさに衝撃を受け、一生かけてやる仕事はこれだと思ったのです。
 その後は出版社も受けましたが採用には至らず、某有名自動車シート(高級車などの座席)を独占的に扱う日本の代理店に就職しました。ただ、今でいうブラック企業で、こんなことをしているなら自分の好きなことをしたほうが良いと思い1年で辞めました。
 ジャーナリストとして海外に行きたいという思いを抱いていたところ、知人からアジアプレスインターナショナルを紹介され、さっそく代表者の野中章弘さんに会いに行きました。最初からメンバーになれたわけではなく、事務所の手伝いや勉強会に参加しながらジャーナリストの入口に立ちました。

3.日本から世界を見る視野、世界の取材で見えたこと
カシミール地域に取材活動の軸足を置くきっかけは

 「最初の取材はカシミールではなく台湾でした。アジアプレスに台湾在住の方がいて、その縁もあって戦後50年ということで従軍看護婦をテーマに台湾で取材しました。問題意識としては良かったと思ますが、若かったこともあり、現在動いている問題を追いかけたいという気持ちがありました。
 大学を卒業する前に、ユースのメンバーがネパールをトレッキングしており、自分でもそういった山岳地帯を旅をしたいと思いました。ゼミ論を書いている時に学校の図書館でパキスタンの『地球の歩き方』を手にしました。K2を登頂した人がほとんど一人で著したもので、さも簡単に行けそうな書きぶりでした。実際に1994年の2月にパキスタンに行ったのですが、岩と雪ばかりの世界で、街道沿いに宿があるような街並みはなくとても不安だったことを覚えています。ただ、現地で会った方はとても親切で、アジアの人々への親近感が湧く思い出深い旅となりました。
 その後、アジアプレスにいるときに都内のパキスタン人の知人から、「カシミールでこんなことが起きているぞ」と紛争のことを教えられたのです。カシミールについて報じる英字メディアはありましたが、日本ではわずかな翻訳報道があるのみで、パキスタンから武装勢力が入り込んでヒンドゥー教徒を殺害しているというような内容でした。国会図書館で調べても日本語の文献は外務省が作成した『70年代以降のカシミール問題』という文献のみ。研究者の方が書いているのですが海外文献に依拠したもので、現地の今がわかるものではありませんでした。
 インターネットが普及し始めころで多少の情報は集めることはできましたが、十分なものはなく、やはり現地に行って見てこなければわからないという思いに駆られました。
 アジアプレスに所属した95年頃はアフガニスタン、旧ユーゴの戦争が終わり、東西対立も消えかかっているころで今後の世界はどこへ向かうのか見えにくい時でした。世界の紛争地をリサーチする中でパレスチナ問題などもありましたが、ジャーナリストの先人たちがいるなかで自分の役割を発揮することはできないと思いました。
 1998年5月に初めてカシミールを訪れました。最初は人権侵害の問題を追いかけました。行ってみると街の至る所に銃を持った兵士がいて、現地の方に話を聞いても怖がって誰も口を開いてくれない状況だったことを覚えています。最近はコロナ禍で渡航していませんが、それまで毎年3か月程度の取材を続けてきました。
 カシミールでは日本のようにシステマチックにものごとが進むわけでもなく、取材ではわずかな情報を得るにも時間がかかります。カシミールでは8割以上の人がイスラム教徒で、お酒は飲みません。予定通りに進まないときは、お茶を飲みながらの現地の人とのコミュニケーションが非常に大事で、かしこまったインタビューでは出てこない本音が、ふと出てきたりするのです。
パキスタンの旅の一コマ

アジアプレスインターナショナルはどんな組織ですか

 世界の報道、特にアジアの報道でも欧米視点の記事が多い。そこをアジア人自身の視点で報じていこうという組織です。海外メンバーも含めると30名程度が所属している。
所属しているといっても給与をもらっているわけではなく、理念を基にフリーランスのゆるやかな集まりとして、一人ではできないことを協力しあって進めている組織です。紛争地帯に入るときは連絡体制、誘拐された時のバックアップなどを行なっています。現地に入る人は毎日連絡を入れています。
インド政府の抑圧に対し、投石で抗議の意思を示す人びと

現在関心を寄せている取材テーマは何ですか?

 やはりカシミール問題です。20数年見てきても問題は悪化の一途です。インド支配地域カシミールはイスラム教徒が多くインドからの弾圧が続いています。カシミールのメディアも弾圧されておりSNSさえ自由に使いにくい状況です。
例えばアフガニスタン問題は東西対立の一面があるため世界でも報道されています。カシミールはインドとパキスタンの間の限られた地域の問題として受け止められ、世界的な関心が低いのではないでしょうか。現地では多くの英字メディアがありますので記事には毎日目を通しています。問題がある以上このテーマから離れることはできませんし、日本にそして世界にこの問題を伝えていく役割があると考えています。

4.同窓会と同窓生にメッセージをお願いします

 私がカシミール問題を取材して学んだ一番の事は言論の自由の大切さです。私が活動するのは紛争地帯ですが、昨今はコロナや元首相暗殺、ロシアのウクライナへの侵攻による影響等、日本社会は紛争地にいるのと同じような緊張状態にあると感じています。
 獨協大学の同窓生は外国語学部や国際関係の学科卒業の方も多く、国内外の政治社会事情について、ご自分なりの視点を持っている筈です。日本では、政治や社会について自分の考えを公にすることを嫌う傾向にありますが、このような世相だからこそ、社会を良くするために批判精神を持って発言をして欲しいと思います。
 同窓会にはマスコミ関係者の集まりもあるようですから、それぞれの現場から思うことなど、書くのが得意な人たちが同窓会報に一文を寄せるなどの企画があっても面白いのではないでしょうか。
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インタビュー 2022年7月28日 於 森下文化センター
(取材担当:広報委員 澤田大輔、飯塚勝久)

【著書の紹介】
『カシミール/キルド・イン・ヴァレイ インド・パキスタンの狭間で』
発行:現代企画室
発売日:2011年11月25日
価格:2420円(税込)

■隣接国に翻弄されるカシミールの人々の様子が精緻な取材に基づいて描写された渾身の著


”日本にそして世界にこの問題を伝えていく役割がある”
廣瀬和司さん― 獨協大学同窓会動画ニュース Vol.60
https://youtu.be/ATu8Jo-odUU